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札幌高等裁判所 昭和35年(ラ)10号 決定 1961年10月16日

抗告人 興国産業株式会社

訴訟代理人 宮沢純雄

相手方 田村正夫

主文

原決定を取り消す。

本件強制執行停止決定申立を却下する。

手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は末尾記載のとおりである。

およそ第三者異議の訴が提起され、民事訴訟法第五四九条、第五四七条による仮の処分を命ずる裁判がなされた場合には右裁判に対しては不服を申立ることができないものと解すべきであるが(同法第五〇〇条第三項の類推)、第三者異議の訴が提起されないのに、前記の各法条による仮の処分を命ずる裁判がなされた場合には、右裁判に対しては何等根拠のない違法な決定として同法第四一一条を類推適用してこれに対し抗告をすることができるものと解すべきである。

原決定によれば、「相手方(強制執行停止決定申立人)は、抗告人(同被申立人)より株式会社みやこ座に対して原裁判所昭和三二年(ワ)第一四七号家屋明渡請求事件の執行力ある仮執行宣言付判決正本に基いて原決定別紙表示の物件に対してなす家屋明渡の強制執行について異議の訴を提起し且つその執行の停止を命ぜられたい旨を申立てたので、その申立を理由あるものと認め保証として金七十万円を供託させ、右強制執行を本案判決をなすに至るまで停止する」というのであるが、相手方が抗告人に対し第三者異議の訴を提起した事実は認めることができないから、原決定は根拠のない違法な決定として取り消さるべく強制執行停止決定の申立は不適法として却下を免れない。

よつて爾余の点についての判断を省略し、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)

抗告の趣旨及び理由

原決定を取消し、本件強制執行停止決定申立を却下する旨の御裁判を求める。

一、抗告人が原告となり株式会社みやこ座を被告として札幌地方裁判所小樽支部へ提起した家屋明渡請求事件(同庁昭和三二年(ワ)第一四七号事件)は、抗告人が株式会社みやこ座から取得した家屋(強制執行の対象となつた本件家屋)につき、所有権に基いて明渡を請求したのであるが、同裁判所は抗告人の請求を認容し、株式会社みやこ座は抗告人に対し家屋を明渡すべきことを命ずる旨の判決をしたのである。すなわち同裁判所は本件家屋の所有権は抗告人にあることを認め、この所有権に基く請求につき抗告人勝訴の判決をした。(疏第一号証……札幌地方裁判所小樽支部昭和三二年(ワ)第一四七号事件判決参照)

二、相手方田村正夫は原告となり株式会社みやこ座および抗告人を被告として同裁判所に対し本件家屋につき株式会社みやこ座の為した所有権保存登記、抗告人のなした所有権移転登記等の抹消手続請求の訴(同庁昭和三二年(ワ)第一三三号事件)を提起し、その請求原因として相手方が本件家屋の所有者であること、所有権に基いて抹消手続を求める旨を主張した。同裁判所は相手方の抗告人に対する請求を棄却し、その理由として相手方は本件家屋に対し現在所有権を有するものでないことを認定したのである。しかし株式会社みやこ座は前記一四七号事件において抗告人の請求を免れようとして、株式会社みやこ座が本件家屋について所有権を取得した事実がないこと、同会社から抗告人へ所有権移転が行なわれた事実がないと主張したのであるが、この主張を維持するためには、この一三三号事件においてこれと異る態度をとり得なかつたため極めて曖昧な答弁をしたので、同裁判所は株式会社みやこ座は相手方の請求を明かに争はないものとして相手方勝訴の判決をした。(疏第二号証……札幌地方裁判所小樽支部昭和三二年(ワ)第一三三号事件判決参照)右判決の結果株式会社みやこ座の保存登記が抹消されても、抗告人の所有権者としての登記には何の影響もなく抗告人は実体上も又登記簿上も所有者なのである。

三、前述したように札幌地方裁判所小樽支部は一四七号事件において抗告人が本件建物について所有権を有すること、一三三号事件において相手方は本件建物につき所有権を有しないことを判定したのである。

四 しかるに相手方は又々本件建物の所有者であることを主張して抗告人の前記一四七号事件判決に基く明渡執行の停止を申立て同裁判所は昭和三五年二月五日付で本件停止決定を与えた。しかし相手方が本件建物につき所有権を持つものでないことは前記のとおり明かであり、相手方の停止決定申立は全然理由がない。従つて本件建物につき抗告人が所有者であることを認め、相手方は所有者でないことを認定した同裁判所としては、このような相手方の所有権を前提とする不当な停止決定申立を認容すべきでないことはもちろんである。右次第で同裁判所が停止決定をしたのはさきの判決と矛盾するもので不当を免れないから、この取消と相手方の申立の却下を求めるため本抗告に及んだ。

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